呼吸器疾患
福岡徳洲会病院 呼吸器内科
副院長 久良木 隆繁
<略歴>
1989.3 防衛医科大学校卒
2003.10~ 福岡大学病院 助教・併任講師
2007.10~ 福岡大学筑紫病院 併任講師
2010.4~ 島根大学医学部附属病院 講師
2020.5~ 福岡徳洲会病院
<資格・専門医>
2021.4~ 福岡大学 臨床教授
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
日本呼吸器学会専門医・指導医
日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医・指導医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本結核病学会 結核・抗酸菌症認定医
肺がんCT検診認定機構 肺がんCT検診認定医師
ICD制度協議会インフェクションコントロールドクター(ICD)
日本医学教育学会クラークシップ・ディレクター
【1】 輪で支えよう、治療効果を高める 呼吸器内科のチーム医療
呼吸器内科は気管、気管支、肺、胸膜などの呼吸に関係した臓器に生じる病気や異常に関して専門的な診療を提供する診療科です。
病気の原因を知り、自分のなすべきことを学びましょう。
呼吸器内科の取り扱う主な疾患・症状には、肺炎・結核などの呼吸器感染・気管支喘息·慢性閉塞性肺疾患(COPD)・びまん性肺疾患(間質性肺炎、肺線維症など)・肺癌などがあります。
近年は、高齢化により呼吸器疾患の患者さまも多くなりました。気管支喘息の患者数、肺炎・慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺癌などの死亡者数は、年々増加傾向にあります。
これらの疾患は、医師による治療だけでなく、患者さまご自身が病気に対する理解を深めて、医師の指導を守ることで、発症予防・重症化予防および症状の軽減と治療効果を高めることができます。
皆さんは、病気の予防には、食生活を整えることや、適切な運動、禁煙などが必要なことをご存知だと思います。それでは、具体的にどのようにすれば良いか、当院の呼吸器内科の取り組みを中心にお話ししていきます。
肺炎予防に筋トレがオススメ。飲み込む力が大事です。
誤嚥(ごえん)性肺炎について述べます。物を飲み込むことを「嚥下(えんげ)」と言い、食物は口から食道、胃へと入るのですが、誤って気管に入ってしまうことを「誤嚥」と呼びます。口の中の細菌が唾液や食べ物と一緒に「誤嚥」され、気管支や肺に入ることで生じる肺炎です。
加齢や寝たきり、脳梗塞後遺症などの病気によって、噛む力や飲み込みに必要な筋力が衰えたり、舌や喉の神経や筋肉が正常に働かず、嚥下がうまくできないなど…口の働きが低下すると、嚥下機能に障害を引き起こす原因となります。
誤嚥性肺炎の症状としては、発熱、せき、濃い色の痰などが挙げられます。抗菌薬治療を行い、全身状態や呼吸状態が悪い場合は、入院による治療も必要です。抗菌薬による治療は細菌には効果がありますが、痰を喀出(吐き出)させたり誤嚥を防ぐことはできません。
誤嚥を防ぐには、飲み込む力を鍛えることが重要です。本を読むときは声を出して朗読する、おしゃべりをするだけでも舌の動きや喉を鍛えることになります。痰を喀出するには筋力の維持が必要です。寝たままでいると、あっという間に筋肉は衰えていきますが、ベッドサイドや車いすに座るだけでもお尻に力が入り、背中の筋肉を保つことになります。当院の入院患者さまには、1時間に1回5分立って、その場で足踏みをするようお勧めしています。起き上がれる体力のある方が「安静」の名の下に寝たままでいると体カ・筋力低下の元になります。難しいトレーニングの必要はありません。日々の生活の中で行う動作が、鍛えることにつながるのです。
誤嚥性肺炎は繰り返し起こす可能性があります。そのような可能性を減らすためにも、看護師や理学療法土が一緒になって、日常生活に復帰できるよう患者さまをサポートしています。
口腔内のケアも予防と改善に有効です。入れ歯を全く洗わず細菌が増殖する、歯を抜いた後の残痕から菌が誤嚥で垂れ込んでしまう…口腔内は細菌だらけです。歯茎磨きをするなどのケアで、誤嚥しても菌が入らないよう、日ごろからお口の中をきれいにしておくことが大切です。誤嚥性肺炎で入院されている内科の患者さまには、当院の歯科と連携して診療しています。
喘息死を防ぐ、喘息薬の継続を忘れないで!
喘息というと子どもの病気だと思われがちですが、成人してから発症することも少なくありません。喘息で死亡に至る原因は、重篤な発作による窒息死です。
喘息死を小児と成人に分けると、そのほとんどが成人であり、現在では死者の90%近くが60歳以上となっています。
ただし、今でも30~50代で亡くなる人も残っています。この世代は、国内の生産活動を中心となって支える人たちで、少しくらいの体調不良では仕事を休まない生真面目な方々なのです。この真面目さが仇でとなって受診が遅くなり、入院が長引くこともあります。
喘息を重篤化させない治療は、気道の慢性的な炎症を鎮静し維持することが重要です。この炎症を抑制する最も確実な薬剤が、吸入ステロイド薬です。ステロイドと聞くだけで拒否感を持たれる方がおられますが、全身への影響の少ない安全性の高いお薬です。生活習慣病、高血圧のお薬と同じで、症状が出ていない時にも吸入薬治療は必要になります。症状が出ていなくてもお薬の継続を忘れないように心掛けてください。
ほかにも、吸入薬をきちんと吸えていない方や、吸入器具の使い方が間違っている方もいますのでご注意ください。診察時には、できる限り患者さまの吸入薬の吸い込み方や、吸入器具の使い方を見せていただくようにしていますし、当院の薬局とも連携して吸入指導を行っています。10年後の自分を助けるためにも継続した治療が必要です。進んで受診されるようお勧めします。
喫煙は百害あって一利なし。
これまで、治療効果を高めるには患者さまの理解が必要であると話してきましたが、予防に対する効果も同様です。呼吸器内科の病気予防に最大のリスク=「喫煙」の話をします。
国内で喫煙に関連する病気で亡くなった人は12~13万人、喫煙者の5~10人に1人が肺癌で亡くなり、喫煙者の2人に1人が喫煙関連疾患で亡くなると推定されています。
国内外の研究により、喫煙は肺癌に限らず、様々な部位のがんの原因と発表されています。禁煙に取り組んできた国では肺癌発症の減少傾向が見られます。
がんの他にも、脳卒中や虚血性心疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や歯周病など、喫煙はさまざまな病気の原因にもなります。
喫煙は百害あって一利なし。煙草は早くやめると病気予防ができます。35~40歳で禁煙すれば喫煙前に近い余命を保て、50歳で禁煙しても禁煙しないよりも寿命を延ばすことができると言われています。更に喫煙は、吸う人自身の健康を損なうばかりでなく、周りの人にも健康被害を与えます。喫煙されている方は、早めに正しい禁煙を始めてください。
このように、病気の予防・症状の軽減には、〈患者さまご自身が健康管理の能力を高めること〉が必要です。当院では、患者さまが適切な行動を取れるように繰り返しご指導し、私たち医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、患者さまを取り囲む医療従事者が一丸となってトータルで支えてまいります。