脳神経外科

ほほえみ[2021 年 春号]vol.100

福岡徳洲会病院
脳神経外科 部長 吉田 英紀

脳神経外科における脊椎脊髄疾患と腰椎椎間板ヘルニアについて

1.脳神経外科と脊椎脊髄疾患

通常「脳神経外科」は脳外科と略されることも多く日本固有の名称です。1951年に東京大学で初めて標榜され、1965年に医療上正式標榜として認められている比較的若い診療科です。英語ではNeurosurgery、Neurologic Surgeryと表記し、「神経外科」の名称が使われています。神経症状の原因究明にはその対象が脳に限られることなく脊髄、末梢神経まで広く包括されています。したがって、世界的に見れば脊椎脊髄疾患はその頻度からも脳神経外科の中でも最も主要な領域であり、それを担う専門分野は脳神経外科が優勢である国が多いのが現状です。例えば欧米ではその手術件数の過半数以上は脳神経外科が占めており、近年日本のおいても神経疾患の外科的治療という目的で脳神経外科としての役割が増大しています。学会関連では2016年日本専門医制度機構新体制となり、日本整形外科学会(日本脊椎脊髄病学会)と日本脳神経外科学会(日本脊髄外科学会)は2017年から脊椎脊髄外科専門医認定制度を開始しています。

2.脊椎脊髄疾患の種類

脊椎脊髄疾患は以下のように大別されます。

  • 頭蓋頚椎移行部病変、頚椎・胸椎・腰椎変性疾患(後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変性すべり症など)
  • 脊髄・脊椎腫瘍
  • 脊髄血管障害(脊髄動静脈奇形、脊髄出血など)
  • 脊髄空洞症、その他(特殊な疾患など)

3.脊椎脊髄疾患の手術法

手術などによる治療法では以下のように分類されます。

  • 前方固定手術(頚椎前方固定術など)
  • 後方固定手術(頚椎椎弓形成術(片開き式、両開き式)、胸腰椎固定)
  • 頚椎~腰椎の椎間板ヘルニア手術
  • 脊柱管狭窄開放手術
  • 低侵襲的・脊椎固定術
  • 脊髄腫瘍摘出術(髄内、髄外)
  • 経皮的椎体形成術(BKP)
  • 椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)

4.腰椎椎間板ヘルニアについて

治療の原則は安静、腰椎コルセットの装着、腰椎けん引、マッサージなどの理学的療法が主体で80~85%は自然軽快するといわれています。症状が強いときは筋弛緩剤、消炎鎮痛剤、ビタミン剤などの内服薬治療や腰部硬膜外神経ブロックなどを行います。以上の保存的治療を2~3カ月行っても効果がない場合、痛みの発作を繰り返す場合、痛みが激烈な場合、下肢運動麻痺や排尿障害などの神経症状を呈するものは手術的加療の対象となります。

5.腰椎ヘルニアの手術療法の歴史

1934年MixterとBarrが腰椎椎間板ヘルニアに対して椎弓切除を行ったのが最初の報告です。1950年Love(Mayo clinic)から始まり、以降Micro Love法による顕微鏡下椎間板へルニア摘出術が報告され普及していきました。また、1975年土方ら経皮的椎間板摘出術を行い、1999年に初めて内視鏡下椎間板切除術が報告されています。その後レーザー治療なども報告されていますが、2008年経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出法が報告され、現在手術療法としての主要な役割を占めています。一方、1964年Smithがタンパク分解酵素であるキモパパインを椎間板内に注入し髄核を融解して椎間板内圧を低下する手技を発表されたが副作用の関係で治療法として確立しませんでした。その後1982年化学的髄核融解術(chemonucleolysis:キモヌクレオライシス)の薬剤としてFDA認可され、2018年8月より腰椎椎間板ヘルニアに対するコンドリアーゼ(ヘルニコア)を用いた化学的髄核融解術が本邦でも保険収載されており、治療療法として注目されています。

6.完全内視鏡下脊椎手術(Full-endoscopic Spinal Suegery:FESS)

外径約7mmの内視鏡を用いた低侵襲な手術の総称です。手術の際の創部の小ささ、術後疼痛の軽減のみならず入院日数の短縮(2泊3日程度)が可能となっています。その中に腰椎椎間板ヘルニアの治療方法であるPercutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy: PELDが含まれています。
また、近年では腰椎椎間板ヘルニアのみならず頚椎、腰椎の椎弓切除・形成術・椎間孔拡大術にも応用されています。

7.当院での経験症例

27歳、男性 右大腿下肢激痛で発症した右L4/5の椎間板ヘルニア

8.まとめ

脳神経外科医でも脊椎脊髄手術は施行しており、当院ではメインで行っています。脊椎脊髄疾患は変性疾患、外傷、腫瘍、血管障害など多岐にわたり、神経所見は単純なものより複雑になることが多いため脊椎脊髄疾患を疑ったり考えたりする場合は専門医の相談が必要で、またMRIなど画像評価が必須となっています。また、今回紹介した治療のように治療方法は日進月歩に変わってきており、今後もより低侵襲で安全な治療方法が確立されていくものと思います。
当院脳神経外科では新たに脊髄外来を開設しています。脳疾患はもとより脊椎脊髄疾患の疑いがあればぜひご相談してください。